パリには中央駅がなく、方面別にターミナル駅が決められています。本記事では、それらの一覧を示すとともに、それらの各駅を詳細に記載した駅への案内を行います。いわば、パリのターミナル駅の案内人といった記事です。
写真1. パリのターミナル駅はそれぞれ表情が異なる
復習:パリの都市構造とターミナル駅
写真2. ドイツの首都の中央駅はガラス張りの立体交差の近代的な駅(ベルリン中央駅)
海外の鉄道について多少学ぶと、「パリやロンドンのターミナル駅は分散しており、欧州にはそのような形態が多い」という記述に出会うことになります。実はこの記述は半分正しく、半分間違えています。
確かにパリやロンドンのターミナル駅は分散しています。一方、中央ヨーロッパ地区のターミナル駅は一極集中であり、ドイツ、スイス、オーストリア、チェコなどはターミナル駅は中央駅(チェコは「本駅」と訳されることが多いが、これは日本語訳の問題でしょう)に集結しています。そのため、欧州の首都全てが分散型ターミナルというわけではありません。
首都のターミナル駅が集中している場所といえども、街の中心部に位置しているわけではありません。ドイツの首都、ベルリンの中央駅は東の市街地(※旧東ベルリン)と西の市街地(※旧西ベルリン)の間の未開発地にあります(かつて2つの都市に別れており、その境界付近)し、ウィーンの中央駅は市街地の南側に離れています(地下鉄や路面電車で市街地と直結しています)。
とはいえ、パリのターミナル駅が分散していることは事実です。ターミナル駅が分散していると、次の疑問が出てきます。「自分はどの駅から列車に乗れば良いの?」と。そこまで難しいことではありません。東京であれば、西のほうに向かうには新宿駅を使いますし、大阪でも奈良のほうに向かうには大阪難波や天王寺を使うでしょう。そのように、目的地さえわかっていれば、駅は自動的に選択できます。
パリの目的別の駅の選びかたの目安
御託はこの程度とし、実際の目安を示しましょう(表1)!
表1. 目的地別の駅まとめ
目的地 | 駅 |
フランス南東部(リヨン、マルセイユ、ニース)、イタリア、スイス方面 | パリ・リヨン駅 |
フランス南部(オルレアン、リモージュ) | パリ・オステルリッツ駅 |
フランス南西部(ナント、ボルドー、トゥールーズ、モンサンミシェル連絡)、ベルサイユ | パリ・モンパルナス駅 |
フランス北西部(ルーアン、ル・アーブル、カーン)、ベルサイユ | パリ・サンラザール駅 |
フランス北部(リール、カレー)、ベルギー、オランダ、イギリス、ドイツ(ケルン付近) | パリ北駅 |
フランス東部(ランス、メッシ、ストラスブール)、ドイツ(フランクフルト、ミュンヘン) | パリ東駅 |
フランス各地の行先を示しました。フランスの中央やや北側にパリは位置し、パリからの方向別にターミナル駅を使い分けています。ただし、フランス南部に向かう列車はフランス南西部に向かう駅(モンパルナス駅)から発車することが多いです。これは、フランス南部に直接通じる高速新線がなく、フランス南西部を通ったほうが早いためです。フランス南部への高速新線も南西部への高速新線でまかない、建設費を削減しているのでしょう。
ベルサイユはパリから日帰りで行くことができ、RERや地下鉄(とバス)で行く方法も解説されていますが、国鉄で向かうこともできます。ベルサイユはもともと鉄道側にとっても人気のある場所だったのか、2社の鉄道路線がベルサイユまでの路線を敷設しました。その2社のターミナル駅が異なった影響が現在まで続いています。
ただし、実際には駅が異なることもあるでしょう。TGVなどはインターネットで予約できますが、そのオプションにParis(all stations)とありますから、そのオプションを選択すれば問題ありません。その後、選択した駅の表示に従い、当日にその駅に向かう(あるいは到着する)だけです。
パリが分散型ターミナルになった理由を記している書籍もあります。このような書籍を読むと、さらに理解が深まると思います!
6つのターミナル駅の概要と位置
さて、その6つのターミナル駅の概要と位置を示します。本記事は鉄道に重点を置いていますので、その駅に近い観光名所を示すことはせずに、市内交通へのアクセスを述べるにとどめます。また、日本語の本記事を読んで分かったつもりになって現地に向かい、フランス語表記の駅名を見ても戸惑うだけでしょうから、一部にフランス語も併記します。
パリ・リヨン駅(Paris Gare de Lyon)
写真3. リヨン駅は人でにぎわう
パリ・リヨン駅の概要です。
図1. パリ・リヨン駅の位置(googleマップより引用)
パリ・リヨン駅はパリの南東部に位置します(図1)。ここから市内へは以下の路線が利用できます。
- 地下鉄1号線(観光客御用達の路線)
- 地下鉄14号線
- RERのA線
- RERのD線
パリの東西軸を結ぶ市内交通にアクセスできるイメージです。
詳細については以下に記しています。
パリ・オステルリッツ駅(Austerlitz)
写真4. オステルリッツ駅はどことなく寂しい
パリ・オステルリッツ駅の概要です。
図2. パリ・オステルリッツ駅の位置(googleマップより引用)
パリ・オステルリッツ駅はパリの南東部に位置します(図2)。ここから市内へは以下の路線が利用できます。
- 地下鉄5号線
- 地下鉄10号線
- RERのC線
パリの市内交通の東西方向と南北方向いずれにもアクセスできます。ただし、セーヌ川の左岸とあって、ややマイナーな場所に向かう交通手段しかないような印象もあります。
詳細については以下に記しています。
パリ・モンパルナス駅(Gare Montparnasse)
写真5. 近代的なモンパルナス駅
パリ・モンパルナス駅の概要です。
図3. パリ・モンパルナス駅の概要
パリ・モンパルナス駅はパリの南部に位置します(図3)。ここから市内へは以下の路線が利用できます。
- 地下鉄4号線
- 地下鉄6号線
- 地下鉄12号線
- 地下鉄13号線
パリ市内の南北軸と環状軸(地下鉄6号線はパリ市内南部を環状的に周回しており、2号線と合わせればほぼ1周)が交差している印象があります。
詳細については以下に記しています。
パリ・サンラザール駅(Saint-Lazare)
写真6. サンラザール駅は昔ながらの駅舎
パリ・サンラザール駅の概要です。
図4. パリ・サンラザール駅の概要
パリ・サンラザール駅はパリの北西部に位置します(図4)。ここから市内へは以下の路線が利用できます。
- 地下鉄3号線
- 地下鉄9号線
- 地下鉄12号線
- 地下鉄13号線
- 地下鉄14号線
- RERのE線(ただし郊外方向にしか行かない)
パリの6つの長距離駅のなかでも市内に最も近いのですが(本来の計画ではもう少し中心部近くのマドレーヌ広場まで乗り入れる予定もあった)、地元の反対もあり、現在の位置に落ち着いています。そのような背景があるためか、地下鉄の接続路線も多い印象です。
詳細については以下に記しています。
パリ北駅(Gare du Nord)
写真7. パリ駅は昔ながらの駅舎
パリ北駅の概要です。
図5. パリ北駅の位置(googleマップより引用)
パリ北駅はパリの北側に位置します(図5)。ここから市内へは以下の路線を利用できます。
- 地下鉄4号線
- 地下鉄10号線
- 地下鉄2号線(別の駅から徒歩連絡)
- RERのB線
- RERのD線
- RERのE線
欧州でも有数のターミナル駅ということもあり、多くの路線が利用できます。経由地が違えど、南北軸が集まっている印象があります。
詳細については以下に記しています。
パリ東駅(Gare de l’Est)
写真8. パリ東駅も多くの人でにぎわう
パリ東駅の概要です。
図6. パリ東駅の位置(googleマップより引用)
パリ東駅はパリの北側に位置します。東駅というからには東に位置しそうなものですが、実際には北駅の近くです(両駅の間は徒歩で移動できます)。ではなぜ「東」駅という名称なのか?それは、フランス「東」部に向かうためです。
ここから市内へは以下の路線が利用できます。
- 地下鉄4号線
- 地下鉄7号線
- 地下鉄10号線
パリの南北軸が3本通っています。4号線は南北軸ながら中心部を通る路線ですから、利便性はそれなりにありそうです(パリの市街地はセーヌ川に沿って東西に延びています)。
蛇足:パリ中央駅的な駅はないの?
写真9. 市内中心部に位置する巨大ターミナル、シャトレ・レアール駅
では、本当にパリ中央駅的な駅はないのでしょうか?実は長距離駅ではない「中央駅」的な駅はあります。それがシャトル・レアール駅(とシャトレ駅)です。近距離路線3路線と地下鉄5路線が集結し、市内中心部に位置する駅です。
図7. シャトレ・レアール駅の位置(googleマップより引用)
ここはノートルダム大聖堂へは徒歩圏内で、ルーブル美術館や近代美術館にも歩いていくことができます(私は地下鉄に乗りましたが)。本記事でパリの観光ガイドをすることはしませんが、有名観光地に近いほどの中心部であることを強調するために、3か所の観光地を挙げさせていただきました。
6つの長距離駅のちょうど中間に位置し、中心部に位置する駅です。本来であれば、6つのターミナル駅を対称に結ぶ地下線(リヨン駅-北駅、モンパルナス駅-東駅、オステルリッツ駅-サンラザール駅)を建設したほうが便利になります。具体的にはパリを超えるフランス国内連絡の便宜が図れるとともに、治安で懸念がある駅で長距離列車と市内交通を乗りかえる手間が省けます。これはフランス・パリ両者の利益にかなうことでしょう。
以下の書籍を読むと、パリのターミナル駅が分散型となっている理由やこの駅の重要性が理解できます。