電車の混雑におけるコロナの影響の推定(東京23区篇、10月追記)

記事上部注釈
弊サイトでは実際に利用したサービスなどをアフィリエイトリンク付きで紹介することがあります

新型肺炎ウィルス(新型コロナウィルス、以下本記事ではコロナ)の爆発的流行防止のために、実施されている外出自粛。この影響で人の流れも大幅に減少しています。では、ラッシュ時の混雑がどの程度減少しているのか推定しましょう。

2020年8月2日:「新しい生活様式」下での混雑率を推定し、加筆
※2020年10月現在では、2020年8月2日更新時とそう状況は変わっていません

2020年9月17日:「新しい生活様式」下での現場調査結果へのリンクを加筆
※2020年11月1日に東急三田線の混雑状況のリンクを追加

山手線E235系(新宿)

写真1. 東京の代表的通勤路線である山手線を、東京の代表的な駅である新宿から眺める

本記事ではあくまでも記事執筆時点での最新の情報をベースに筆者が推定したものです。社会情勢の変化などで変動されることが予想されます。

推定のまとめ

推定のまとめを示します。緊急事態宣言が発令されていた社会情勢の中では、実態を駅で確認することは不謹慎です。そのため、各種統計から推定しております。また、「新しい生活様式」が定着した段階では実際に郊外路線の混雑を確認し、さらに精度の高い推定に達しています。

・緊急事態宣言中:推定では、通常の1/3程度しか利用されていない
・緊急事態宣言中:混雑率はおおむね60%である

・新しい生活様式下:推定では、通常の2/3程度利用されている
・新しい生活様式下:混雑率はおおむね100%~120%である

推定の方法

利用人数のデータは東京都から開示されています。以下のリンク(公的機関としてはとてもわかりやすいサイトです)からご覧いただけます。

都内の最新感染動向

このページには都営地下鉄の自動改札通過人数が記録されています。1/21~1/24を基準としてどの程度減少したのかが、開示されています。

1/21~1/24は日本で流行する直前かつ、長期休暇にかかっていないごく普通の平日です。つまり、この期間の利用者数は「いつもの」利用者数といえます。このデータは都営地下鉄の自動改札の出場者数のものです。自動改札の出場者数は鉄道の利用者数に比例すると考えられます。利用者数に比例するということは、(ダイヤ改正で若干の輸送力変化はあっても)輸送力は変わりませんから、混雑率にも比例します。

都営地下鉄だけが特別な変動をするとは考えにくいです。首都圏の全路線で同様の変化(※)をすると予想できます。

※例えば都営地下鉄だけが顕著に利用が減り、東京メトロの利用は減らないということは考えにくいです。都営地下鉄でも東京メトロでも、あるいはJR線でも同様の傾向が生じるということです。

その説を補強するデータがあります。上記ウェブサイトには、東京の主要3エリア(新宿、渋谷、東京の3エリア)の利用者数のデータも示されています。新宿、渋谷、東京で朝の8時台の出場者数は以下の通りになっています(いずれも4/10時点、基準は1/24)。

新宿:-61.7%
渋谷:-65.9%
東京:-67.7%

いずれも-60%~-70%の利用者数です。地域によって「顕著に減少している」、「全然減少していない」という差はありません。つまり、どのエリアでも均一に減少しているということです。

さて、都営地下鉄の7:30~9:30の出場者数は4/13~4/16の時点で-64.9%となっています。1000人の利用者がいたら、649人減少し、残り351人だけが利用しているということです。いいかえると、普段の35.1%しか利用していないということです。ざっくりとした感覚ですが、従来の1/3しか利用していないことを示します。

緊急事態宣言の解除後、だいたい通常よりも-35%程度の利用となっています。ただし、私が郊外路線で確認したところ、そこまでの減少率ではありませんでした。これは都心を通る都営地下鉄ではインバウンド需要も担っていた(朝に宿泊先から観光地に向かう流れがある)のに対し、郊外を通る路線ではインバウンド需要がありません。

そのため、インバウンド需要も担っていた都営地下鉄では35%の減少、インバウンド需要を担わない郊外路線では30%の減少と推定しました。

推定の結果

では、普段の1/3しか利用していないとどの程度の混雑になるのでしょうか。現在入手できる最新のデータは2018年度(2018年の秋に実測したデータ)です。その数値を基準に考えましょう。混雑率が100%の路線であれば、混雑率は35.1%まで減少しています。

「新しい生活様式」が定着してきた段階での推定混雑率は上記の通り、都心の路線では35%減少、郊外の路線では30%減少と推定しています。都心と郊外の区別は便宜上「山手線の外側と内側」で区別しました。

表1. コロナにおける外出自粛時の混雑推定データ

会社 路線 最混雑区間 混雑率(普段) 混雑率(緊急事態宣言中) 混雑率(新生活様式)
JR 山手線(外回り) 上野→御徒町 151% 53% 98%
山手線(内回り) 新大久保→新宿 158% 56% 103%
京浜東北線(北側) 川口→赤羽 171% 60% 120%
京浜東北線(南側) 大井町→品川 185% 65% 130%
中央線(快速) 中野→新宿 182% 64% 127%
中央線(各駅停車) 代々木→千駄ヶ谷 95% 33% 62%
総武線(快速) 新小岩→錦糸町 181% 64% 127%
総武線(各駅停車) 錦糸町→両国 196% 69% 137%
東海道線 川崎→品川 191% 67% 134%
横須賀線 武蔵小杉→西大井 197% 69% 138%
埼京線 板橋→池袋 183% 64% 128%
常磐線(快速) 松戸→北千住 154% 54% 108%
常磐線(各駅停車) 亀有→綾瀬 152% 53% 106%
京葉線 葛西臨海公園→新木場 166% 58% 116%
宇都宮線 土呂→大宮 142% 50% 99%
湘南新宿ライン データなし データなし データなし データなし
東京メトロ 銀座線 赤坂見附→溜池山王 160% 56% 104%
丸ノ内線 新大塚→茗荷谷 169% 59% 110%
丸ノ内線 四ツ谷→赤坂見附 165% 58% 107%
日比谷線 三ノ輪→入谷 157% 55% 102%
東西線 木場→門前仲町 199% 70% 139%
東西線 高田馬場→早稲田 130% 46% 84%
千代田線 町屋→西日暮里 179% 63% 116%
有楽町線 東池袋→護国寺 165% 58% 107%
半蔵門線 渋谷→表参道 168% 59% 109%
南北線 駒込→本駒込 159% 56% 103%
副都心線 要町→池袋 152% 53% 106%
都営地下鉄 浅草線 本所吾妻橋→浅草 133% 47% 87%
三田線 西巣鴨→巣鴨 158% 55% 111%
新宿線 西大島→住吉 156% 55% 109%
大江戸線 中井→東中野 159% 56% 103%
小田急 小田原線 世田谷代田→下北沢 157% 55% 110%
東急 東横線 祐天寺→中目黒 172% 60% 120%
田園都市線 池尻大橋→渋谷 182% 64% 127%
目黒線 不動前→目黒 174% 61% 122%
池上線 大崎広小路→五反田 131% 46% 92%
大井町線 九品仏→自由が丘 155% 54% 109%
京王 京王線 下高井戸→明大前 165% 58% 116%
井の頭線 神泉→渋谷 149% 52% 104%
西武 池袋線 椎名町→池袋 159% 56% 111%
新宿線 下落合→高田馬場 159% 56% 111%
東武 東上線 北池袋→池袋 136% 48% 95%
伊勢崎線 小菅→北千住 150% 53% 105%
京急 本線 戸部→横浜 143% 51% 100%
京成 本線 大神宮下→京成船橋 130% 46% 91%
押上線 曳舟→押上 149% 53% 104%
つくばエクスプレス 青井→北千住 169% 59% 118%
北総鉄道 新柴又→京成高砂 91% 32% 64%
りんかい線 大井町→品川シーサイド 137% 48% 96%
ゆりかもめ 竹橋→汐留 99% 35% 69%
東京モノレール 浜松町→天王洲アイル 101% 35% 71%
日暮里舎人ライナー 赤土小学校前→西日暮里 189% 66% 132%

本当は最混雑時間帯に実態を調査するのがスジでしょうが、「外出自粛」時に「個人の趣味」のために混んでいる駅で観察するのも適切ではありません。そのため、推定データとなる点をご了承ください。

東海道線、横須賀線や埼京線は普段でもここまで混んでいません。これは湘南新宿ラインの輸送力が統計に入っていないためです。また、常磐線、総武線(快速)についてもここまで混んでいません。これはグリーン車の輸送力が統計に入っていないためです。このような不具合はありますが、単純のためにここでは「公式」発表の混雑率を参考にしました。

混雑率は60%前後となっています。混雑率60%はどの程度なのでしょうか。座席の60%が埋まる状況を混雑率60%というわけではありません。混雑率60%弱というのは、座席が埋まっていて、なおかつドア付近に数人が立っている状況です。最も混んでいる地下鉄東西線であっても、混雑率は70%程度です。これは、座席が埋まっていて、座席前の吊革が1/4程度埋まっている状況です。

いずれにしても、統計上は押しくらまんじゅうのように詰めこまれることはない、というのが「外出自粛」期間中の東京の通勤電車の情景です。

混雑ポイント120ポイント相当

写真2. 混雑率70%程度の様子

「新しい生活様式」下では混雑率は100~120%という路線が多いです。混雑率120%に対応する混雑状況は以下の写真の通りです。

混雑ポイント140ポイント相当

写真3. 混雑率120%程度の様子

実際の混雑調査結果

「新しい生活様式」になってからは、現場で混雑を確認しています。

朝ラッシュ時の混雑状況

朝ラッシュ時の東急目黒線の混雑状況です。地下鉄南北線直通電車と、都営三田線直通電車のどちらが混んでいるのでしょうか。

東急目黒線の混雑状況(朝ラッシュ時、不動前→目黒、現場調査結果)

東急田園都市線の朝ラッシュ時の混雑を確認しています。意外な種別が空いていました。

東急田園都市線の混雑状況(コロナ影響下、朝ラッシュ時、池尻大橋→渋谷、現場調査結果)

西武新宿線の朝ラッシュ時の混雑を確認しています。意外な種別が空いていました。

西武新宿線の混雑状況(平日朝ラッシュ時、下落合→高田馬場、新しい生活様式下、現場調査結果)

西武池袋線の朝ラッシュ時の混雑を確認しています。こちらも、意外な種別が空いていました。

西武池袋線の混雑状況(朝ラッシュ時、椎名町→池袋、新しい生活様式下、現場調査結果)

民鉄で最も長い複々線を持つ東武伊勢崎線。この路線も意外な種別が空いていました。

東武伊勢崎線の混雑状況(平日朝ラッシュ時、小菅→北千住、新しい生活様式下、現場調査結果)

夕方ラッシュ時の混雑状況

8両編成化が予定されている都営三田線。その混雑状況を確認しています。

夕方ラッシュ時の都営三田線の混雑状況(巣鴨→西巣鴨、現場観察結果)

有楽町線の最混雑区間の混雑状況を確認しています。穴場となる列車を見つけました。

夕方ラッシュ時の地下鉄有楽町線の混雑状況(コロナ影響下、飯田橋→江戸川橋、現場調査結果)

京急線の混雑状況を確認しています。最混雑区間は横浜→戸部ですが、ここでは品川→北品川の混雑を確認しています。

夕方ラッシュ時の京急の混雑状況(品川-北品川、新しい生活様式下、現場調査)

西武新宿線の夕方の混雑も確認しています。各駅停車は空いていましたね。

平日夕方ラッシュ時の西武新宿線の混雑状況(高田馬場→下落合、現場観察結果)

緊急事態宣言解除後の状況

ある意味異常事態の「緊急事態宣言」。それが解除された直後の混雑状況はどうだったのでしょうか。首都圏では標準的な混雑状況の京王線で確認しました。

京王線の混雑状況(代田橋→笹塚、朝ラッシュ時現場調査、緊急事態宣言解除後)

アフターコロナ:今後について

現段階で「外出自粛」後のことを想像するのは不謹慎かもしれません。しかし、現在のような状況が永遠に続くとは考えにくいです。いつか、コロナが収束して、コロナと共生する時代がやってくることでしょう。これは、コロナ撲滅成功を意味するわけではありません。いうなれば、交通事故を含めて自動車社会を受け入れた(交通事故がこわいからといって、自動車をなくすことを言う人はそういません)ときの様子です。

では、「外出自粛」解除後の首都圏の電車の混雑はどうなるのでしょうか。そのときは商業施設が再開され、「夜」の店も再開することでしょう。そのため、現在のような混雑は続くとは思えません。とはいえ、「外出自粛」を機に始まった在宅勤務が皆無になるとは思えません。10人いる職場のうち、1人~2人(※)が在宅勤務になるのが現実的なラインでしょう。

※この1人~2人というのは特定の人を指しているわけではありません。誰を在宅にするかというのは職場の事情もありましょう。しかし、本記事のような電車の混雑を取り上げる場合は誰であってもそう変わりません。

となると、コロナ前の混雑の1割程度が緩和するという計算です。混雑率180%の路線であれば、162%までに緩和することを示します。

いつも乗る電車が満員でうれしい人はそういないでしょう(満員電車がうれしいのはスリと痴漢だけといわれます)。コロナという不幸なものがきっかけではありますが、きっかけはともあれ、通勤電車の混雑が少しでも空くようになってもらいたいものです。